松文館裁判

(2002年10月5日発端,2004年1月13日地方裁判決有罪,2004年9月12日控訴審開始予定)
2004年9月1日更新

2002年10月5日 (株)松文館社長・編集長・漫画家B氏逮捕

罪状は刑法175条猥褻罪

具体的に言えば『エロ漫画を描いて出版したこと』・・・・
(参考HP:児ポ法改悪阻止青環法粉砕実行委

1.初めての漫画家逮捕

 事の発端はとある1児の父親からの手紙が発端だったそうです。(内容はこちら)

 正直,この手紙を読んで確かに父親の言いたい事はある程度分かります。あの雑誌は私も買ったことがありますが ちょいと苦手な部類に入る漫画が多かったのも覚えています。だからといってここまで取り締まるほどの物ではないと私は考えます。

 なぜなら,きっちりその雑誌には『成人誌』のマークがつけられており,正規のルートで流通している雑誌であるということです (政府が認めて合法的に販売されている雑誌ですから)。
  もし責任を問うのであれば,成人未満購入不可であった雑誌を成人未満であり,その事実を知りながら (知らなかったとは言えないでしょう)その雑誌を購入した子供にあるといえるでしょう。 最悪,購入者の年齢の確認を怠った書店側の責任程度でしょう(現在のシステムでは購入者の年齢確認はほぼ無理でしょうけど)。

 それに世の中の男性諸君だったら18歳になるまでにAVやエロ本を一度も見たことが無いという方が稀有でしょう。

 しかし現実問題,私の考え方など関係なく見事なまでの逮捕劇になってしまった訳なのですが・・・・・。

 しかも,摘発されたのはこの父親の手紙に書いてあった雑誌ではなく逮捕半年前に出版された『密室』と言う単行本が対象のようです。 この事実には『人の多い雑誌よりは単行本・個人の方が吊し上げる手間がかからなくて良いというような考えを警察は持っているのでは』 と邪推をしてしまいます。

2.この裁判の危険なポイント

 今回の争点は『松文館の雑誌・単行本が猥褻罪にあたるかどうか』 です。もしこの裁判で松文館側が有罪になってしまうと,他で述べている青環法や児ポ法などなくてもある程度の出版物(18禁系)は 取り締まることが可能になってしまいます。下手をすればこれがきっかけとなって児ポ法改正案や青環法制定に加速を掛けかねません。

 しかも,裁判の判例というものは何十年立っても消えるものではなく後々,参考にされる存在です。 つまり,この裁判で松文館側の有罪が決定することは,後々同じような裁判が起きてもこの判例を盾にとられて常に不利な状況から 裁判を始めなければならないということになります。

この裁判はただの裁判ではなく,

出版・アニメ・ゲーム業界の存亡に関わることなのです。

この表現は決して大げさなものではありません。一般誌はもちろん,パロディ系エロ同人誌であれば今までの 『著作権法違反』+『わいせつ罪』のダブルパンチを喰らうでしょう。だからこそこの裁判は断じて検察側に負けるわけには行かないのです。

 後,この裁判いついてはある程度自分が気になったポイントについてだけ説明しておきますので,本格的に知りたいという方は 児ポ法改悪阻止青環法粉砕実行委のHPにかなり詳しく説明されているのでそちらのほうを参考にしてください。

3.興味深い公判

今回公判文を読んで面白いなと思った事がいくつかありましたのでいくつか紹介します。

まず1つ目が第6回公判の大阪府で有害図書指定の仕事をされている園田氏の証言でした。
 要約すると『有害図書であると指定された場合は18歳未満に販売禁止すると同時に18歳以上の人間に対しては販売を許可することである。 有害と猥褻は必ずしもイコールで結ぶことは出来ない』とのこと。

正直,宝島訴訟の件でかなり不健全図書指定をしている人達のことをあまり良く思っていない節もあったのですが, 意外としっかりとした自分の考えを持つ骨のある人もいるのだなと感じました。

2つ目が第5回・8回公判で刑法175条の猥褻罪の図書にあたる部分について,弁護側証人である 法学専門家達によって『言論・思想の自由の原則』に反する存在ないし,その存在をもう一度考え直す必要があることを指摘されていました。
 というのも,猥褻図書に関する裁判では1952年日本で猥褻図書に指定された裁判・『チャタレイ事件』が 今でも尾を引いていて,いつもこの事件が引き合いに出されているからです。

はっきり言えば『チャタレイ事件』裁判当時の価値・倫理観は今では完全に古いものとなっており、今であれば『チャタレイ事件』は ワイセツ図書にはまずならなかったでしょう。
 今回の裁判でもその当時の価値・倫理観を引き合いに出して,裁判官・検察はワイセツを検証しようとしていることから, この事件は当時としてはかなり大きな社会問題になっていたことがうかがえます。

本音を言えば『今更』感が強いといったところです
 そして3つ目であり,今回の裁判で最も注目した公判だったのが第7回の公判で 弁護側の証人・精神科医の斎藤氏が出てきた時でした。この公判ははっきり言ってかなり面白いです。 興味のある方は『HP:児ポ法改悪阻止青環法断固粉砕委』の所で読んでみて下さい。ある意味日本歴史上初かもしれません。 これを呼んだ私は裁判官が目を白黒させて狼狽する姿を想像して思わず笑ってしまいました。

 そりゃ普通のエロ漫画に卑猥やワイセツを感じる人達がいきなりあんな物を証拠とはいえ見せられたらうろたえもするでしょう・・・・。

 という訳でこの3つめに関しては実際に自分の目で確かめてみて下さい。
ちなみに,この斎藤氏は有名なアンダーグラウンド誌『ゲームラボ』にも出ている方です。興味のある方はそちらも合わせてどうぞ。

4.警察の悪癖〜恐るべき調書〜

 今回の裁判で証拠の一つとして提出された物に逮捕時の警察が作成した調書があります。 しかしこの調書にはどうも性質が悪いカラクリが存在するようです。

というのも,上記の参考ホームページで公判文を読む限りではどう考えても警察の『脅し』です。他にも幾つか調べた感じでも 警察が『脅し』をやっていた可能性は十分考えられます。実際,知り合いの友人が痴漢の冤罪を受けたとき,警察は任意同行でありながら 『罪を認めないと帰さない』といって彼の主張を完全に無視し,事実関係をロクに確認せずに脅されたそうですから。

 今回は実際の取調べの時に,松文館の社長が罪を認めないといえば『漫画家全員を捕まえてくるぞ』と脅し, 漫画家B氏が認めないといえば『家族も逮捕するぞ』と脅す始末。露骨な言い方をすれば『お前が認めなければ会社(もしくは家族)を 社会的に抹殺するぞ』と言っているようなものでしょう。本職のヤクザもビックリな脅し。
 良く言えば搦め手から相手を責める素晴らしい作戦,悪く言えば人でなしやクサレ外道が使う最低最悪の手段でしょう (もちろん私がその場にいたら殺意を覚えますけどね)。
 こんな脅しをされたら同じクサレ外道でない限り,屈せざるを得ないでしょう。極論,

 

人質を抑えた上で罪を認めさせようとしている
=脅迫

でしょう。誰の目から見てもアンフェアな取り調べです。その上,調書の書き直しを要求した3人は拘留期間が延びた上に接見禁止, 書き直すどころか警察が予め用意した調書にサインを強要される始末。この取り調べをした警察は本物の下衆ですね。

 但し,警察全てがクサレ外道とはいいません。実際にこのようなことをやっているのは一部の人間だけなはずですから (正直真面目に働いている人達のことを信じてあげたいです)。

 一方的に警察を苛めるだけではいけませんので,一万歩譲ってこの様な脅しが無かったとしましょう。 しかし,被告のその当時の周囲の状況などを考えれば正常な精神状態ではなかったことが十分考えられます。 社長は至急約束手形と決裁しないと会社が倒産する,漫画家は逮捕されたことで家族にどのようなことが起こっているのかを確認が出来ない。

 この事実から誰の目から見ても正常な精神状態で取り調べを受けたとは考えにくいでしょう。

結論,警察が証拠として提出した逮捕時作成の調書については証拠能力は低いと思われます。

しかし,この調書は証拠として認められました。

正直この事実が後々判決に影を落さない様にただひたすら裁判官の人間性に期待するしかありません (ちょっと怪しいですが)。

他にも今回の警察に関しては被告(松文館側)にたいする不当な拘留(任意同行でつれてきたのに拘留している), 本当に慎重な判断だったのかについてなど列挙すれば書ききれないほど不審な点がありますがここでは割愛します (興味のある方は参考HPの裁判の公判記録をお読みください。そちらのほうがじかに分かると思います。


5.第11回公判までを読んで(2003年11月20日現在)

 この裁判の公判文を読む限りでは,はっきり言って弁護側が有利であると判断します。誰の目から見てもあきらかでしょう。 きっちりとした具体的根拠に基づいてしっかりとした論を展開する弁護側・松文館と,常に明確ではない基準で矛盾をはらんだまま 裁判を進める検察側。その姿勢は第10回公判の検察側の論告求刑と第11回弁護側の最終弁論に表れています。客観的に見て弁護側の勝利でしょう。

 負けるはずが無いと思いつつも,第4回公判以降から弁護側にあまり良い印象を持っていないとある『裁判官』と 『上記の調書』が一抹の影となって不安が残ります。

 恐らく年内には判決が出ると思いますが,その判決が人の道に外れぬ様ただ願うばかりです。


6.とうとう出た判決(2004年1月14日)

 一審判決、求刑通り懲役一年、執行猶予三年の有罪。

 東京地裁、中谷雄二郎裁判長

 愕然とする判決です。合理的疑問が満載の判決結果が出ました。
詳しくは,新しく用意した,『第一審判決』文の方で紹介しています。 ほぼ完全に,検察側要求通りの判決となりました。

 笑うしかないでしょう。あの裁判を見る限り,どう考えてもいい加減な合理性を崩された検察・警察側に対する 弁護側・松文館側の勝利だと思っていたのですが,このような結果となってしまいました。 さすがに弁護団・松文館社長,判決が出て即日控訴しました

 この判決+あの判決文の内容では,普通にこの裁判の経緯をある程度知っている人であれば, 納得できるような代物ではありません。このような結果に終わったことに,私自身もかなりの怒りを覚えています。 公平さを基本とする裁判の場において,合理性が無い論がそのまま通ることには憤りを感じます。

 この裁判はまだ,地方裁判ですので,まだ挽回の余地は有るとはいえ,正直,この裁判結果が現在進められている 不健全図書指定や,青環法などに影を落とさねば良いのですが………この判決を見た後では,もう断言する自信はありません。

 せめて,控訴審で『地方裁への差し戻し』など再び論議する余地を持つ結果が出ることを切に願います。

WRITTIN BY 帆葉佳一

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